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< 東 京 歌 会 便 り 2018年9月>
2018 年 11月井 本 昌 樹
東京会歌会便り 2018年9月 井本昌樹
「敬老の日」にかかる連休の中の九月東京歌会では、
次の歌たちが注目をあつめた。
その男の子キッチンに立つわがでんぶに触れてたちまち
わぁと逃げたり 中澤 明子
煮魚はさ・み・し・さ同量水二倍いつか旅立つ
子にも伝える 柳沼 美紀
水たまりは飛び越えるものと信じてたけれど
一緒に遠回りしよう 氏家 長子
一首目を深く読み味わうには、直前の一首「ねぇねぇせく
はらってなあに?ひとのいやがることをすること ふ~ん」
を必要としよう。なだ学齢前の男の孫が、薄々は知りながら
聞いてきたに違いない。そして「ふ~ん」と言ったかと思うと、
突然作者のお尻に触れ、わぁと逃げて行ったのだ。利発でい
たずら好きな男の子の姿が、生き生きと伝わってくる。
二首目。「さ・み・し・さ」と口に唱え、砂糖・味醂・醤油・
酒の煮魚の材料を整えつつ、遠い日それを母に教わったこと
を思い起こしている。そしてそれを、遠からず旅立つことに
なるであろう子に伝えることを思いながら、そこはかとない
「さ・み・し・さ」をかみ締めている。
三首目。遠く香川県から見えた氏家さんは、教職の場を変
え「ぬいぐるみを要塞のように積み上げた部屋に少女と膝つ
きあわせる」道を選ばれた。水たまりは飛び越さず、苦しむ
子らと遠回りしようと、自らに言い聞かされているのだ。
。
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