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三枝昂之歌集
『遅速あり』について

2020年6月

和 嶋  勝 利

    このたび三枝昻之『遅速あり』が第54回迢空賞を受賞された。

 受賞にあたり、このコーナーであらためて本歌集の紹介と本歌集にか

 かるぼくのつたない雑感を述べたい。

   樹の声を聴く 若き日の遠景にわれを目守(まも)りし樫の樹の声

   草木(そうもく)に人の暮らしに遅速ありて春の光の彼岸近づく

   散る梅を流れる雪と見るこころ万葉集五の大友旅人

  個人的な好みで三首を掲出した。一首目は、まず、「樹の声を聴く」

 が意表を突く。また、「樫」は重要な昂之ワードであることを確認したい

 「冬の樫 あれは砦にあらざれば窓に炎の髪うつしいる」のような歌が

 すぐに思い出される。作者は若き日を回想しつつ樫と会話している。

   二首目は、現在の作者の暮らしを見つめつつ変わらない季節の巡

 りを述べている。三句目に歌集名となった「遅速あり」が現れるが、こ

 のことばに古希を向かえた作者の泰然とした姿が読み取れる。

   三首目は、大友旅人の「わが園に梅の花散るひさかたの天より雪

 の流れ来るかも」に感銘を受けた作者が、そのうたのゆかしさについ

 て述べたものである。ただ注目すべき点は、この旅人のうたが「令和」

 の典拠に大きくかかわっていることだ。

  「令和」の典拠は「万葉集」巻五の梅花の歌三十二首の序文である

 けれど、この三十二首のなかにこの旅人のうたが含まれる。本歌集

 は2019年4月20日の発行で、世の中が「令和」の話題でかまびすしい

 ときに(新元号の発表は同月1日)、ちょうどこの「散る梅を」のうたに

 出会った。これを先見の明といっていいのかどうか分からないが、歌

 集を読みながら声を上げるくらいびっくりしたのは初めての経験である。

  本歌集の「あとがき」にも触れられているが、「遅速あり」という歌集

 名には飯田龍太句集『遅速』を意識したところもあるようだ。『遅速』

 は1991(平成3)年12月に刊行された氏の第十句集であり、2007(平

 成19)年に亡くなった氏の最後の句集である。『遅速』からは、次の

 ような句を紹介しておきたい。

       木には木の水には水の暮春かな
       なにはともあれ山に雨山は春

  句のことばに難しいところはなく、句の内容も直感的に分かる気がす

 るのに、いざ自分のことばで通釈を行おうとすると急に手強くなる。

 それが氏の句だ。

  ところで、ぼくの手元にある『飯田龍太自選自解句集』のなかの「作

 品の周辺」に、氏のこのような記述がある。

  「(上記の自解句集について)作品の方はふるくから馴染んだ旧仮

 名遣いのままにした。将来もおそらく旧仮名遣いを続けるだろうが、こ

 れは理屈でなく私の我儘(わがまま)だと思っている。表現語法の点で
 
 も、あるいは文字の眺めからいっても、私には旧仮名遣いの方が自

 分の俳句のように思えるだけのこと。むろん新仮名遣いを学んだ人達

 はそれが身についた自分の文字であるからそれに従ったらいいだろう。

  このことは単に語法のみではない。季物の問題にしても同じことで、

 それぞれ時代時代の変貌があってしかるべきものだ。仮にそのような

 ことで俳句が滅びるのなら、それはそれで致し方のないことだと思う。」

   ここには、氏の文芸に対するこだわりと柔軟さと俳句に対する考え

 方や矜持が見え隠れする。

   三枝さんは飯田龍太氏を龍太師と呼ぶ。師の句集に共鳴した本

 歌集で迢空賞を受賞され、三枝さんの喜びもひとしおではないかと

 想像する。

     三枝さんの迢空賞を心からお祝い申し上げます。

  

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『 さ ん ご じ ゅ 』 の ご 案 内

2020年6月

高 橋  千 恵 


  「さんごじゅ」はりとむ短歌会のメンバーが集い編まれた同人誌です。

 冊子の名前は三枝昻之先生、今野寿美先生の贈答歌よりいただき、

 2018年の初夏に創刊いたしました。冊子刊行と共に毎年GWの文学フ

 リマ東京に出店していたのですが今年は新型コロナウイルスにより

 文学フリマ中止となってしまいました。が、〈作品は鮮度が命!〉〈ウイ

 ルスに負けない!〉という気持ちを優先して今年も無事に刊行いたし

 ました。

   ここで「さんごじゅ」の内容をざっくりご案内いたしますと毎回、特集テ

  ーマがあり創刊号は〈食〉vol.2は〈街〉vol.3は〈色(color)〉と特集テーマ

 に添ったエッセイや評論などの読み物企画、それと執筆者全員による

 連作12首。執筆者の選んだ特集テーマの(例えば〈食〉でしたら〈食〉に

 まつわる歌)1首評があります。

  今年刊行したvol.3の内容をご紹介しますと

     ○連作12首

     ○私の選ぶ色の歌(色にまつわる歌の1首評)

     ○評論(今回は古典(越田勇俊)近代(天野陽子)現代(新木マコト)

  のパートに分かれ色の歌について論じてます。)

  ※特集Ⅰ(資料)

      ○三枝昻之全13歌集の色彩語彙統計集(高橋千恵)

      ○今野寿美全10歌集の色彩語彙統計集(堀まり慧)

 ※特集Ⅱ

      ○歌仙・佐保神の巻(こちらはLINEで歌仙を巻き、編集しました)
            (連衆・里見佳保、樋口智子、山口文子、和嶋勝利)

      ○ブックレビュー(2019年に刊行された歌集のブックレビュー)
           (岩内敏行、北川美江子、笹谷潤子、松山紀子)

      ○表紙写真競詠(「さんごじゅ」表紙写真を見て1首)
          (榎本麻央、寺尾恵仁、増田理恵、柳沼美紀、栁澤有一郎)

      ○酒中日記(ある日、ある時のお酒の場面を語っております)
          (田村元)

 「さんごじゅ」vol.3はもちろんのこと、創刊号、vol.2も在庫があります

  ので通販を随時承っております。

  ご希望の方はchiezo.sen@hotmail.co.jp

      高橋千恵までメールをお願いいたします。

        件名:「さんごじゅ」3号購入(バックナンバーの場合はその号を)

            本文:①ご希望の冊数
                   ②ご住所、お名前を明記してください。

    料金は1冊につきどの号も500円、発送はスマートレターを使います。

   2冊まで180円です。(例えば冊子1冊購入の場合は冊子500円+送料

   180円、合計680円です)

  1度、ご連絡いただきましたら返信メールにてお支払い方法など、

 お伝えいたします。

    また、葉書にて購入をご希望される方は

       〒981-0943 仙台市青葉区国見3-2-27アーバンヒルズ国見202
          越田勇俊 あてにお願いいたします。

   何かご質問などありましたら高橋あてにお気軽にメールいただけれ

   ばと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします。


     

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