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2018年5月

2018 年 7 月


井 本 昌 樹


  東京歌会便り  2018年5月 井本昌樹

 

 爽やかな風の薫る三月の東京歌会では、一連に置いて読んでこそ生気

を帯びてくる、次の歌達に心を引かれた。

   「ぼたん鍋」その向かひには「どぜう」あり両国橋にお江戸が匂ふ 
                                                                         右田 研三
    
      あなたたちと呼ばれ驚く空襲のつづくシリアゆ届いた言葉  
                             遠藤 たか子


   背後より吾を呼ぶ声振り向けばだあれもゐない冬の夕焼け
                             竹内 由枝

  一首目は、今月の十首詠に選ばれた「両国橋」の結びの歌。

三十番目の居を両国に定めた右田さんは、持ち前の好奇心から周囲の

探索に余念がない。隅田川に架かる橋の風景に始まる一連、江戸の

歴史文化から、専門的な橋梁の構造・形式、震災後の一連の橋の設計

者太田圓三に至るまで広く多彩で、読む者を飽きさせない。そして結び

に、「ぼたん鍋」「どぜう」の向かい合う、江戸情緒の香る歌を置き閉じ

られている。

  二首目は、続く「「あなたたちの沈黙がわたしたちを殺す」といふ朝刊

の記事を丹念に読む」の歌のより、すっくと立ち上がってこよう。シリアの

十五歳の少年の発した言葉「あなたたち」に驚き、思わず自らを顧みさせ

られている。

 三首目。死の間際の父の姿と、見守る自らの思いを丹念に詠みとめた

九首に続けて読むとき、歌は俄かに生動してくる。

誰かに呼ばれた気がして振り向くと、だれもいず、ただ冬の夕焼けのみが

拡がっていたのだ。竹内さんの絶唱であろう。


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