東 京 歌 会 2019年5月 井 本 昌 樹
令和最初の、記念すべき五月東京歌会では、次の作品たち
に注目した。
椿大樹五百(いは)の莟のひしめけりひとつ残らず咲
くのだろうか 竹内 由枝
はるの日をあつめる満たす育むという器など
眩しいばかり 天野 陽子
三百年夜空見上げて江戸の骨此処よりわれも
同じ星視る 中山 春美
一首目は今月の十首詠に選ばれた「風のいたづら」の一首。
雲間の空の湖、月の雫の蝋梅、そして椿大樹に犇く莟を、全
て咲くのだろうかと見つめている。対象を静かに見つめ受け
とめつつ、今ここにこうして在る。自分自身を見つめている。
二首目。同じく今月の十首詠に選ばれた「はる風」の一首。
風にゆらぎくるトランペットのチューニングの音。土中に球
根を持ち、すっくと立ち上がる水仙。ほろほろとか細い音を
醸す、サラブレッドの脚線の木琴。こよなく新鮮で個性的な
言葉に紡がれるこれらの歌は、春に立ち向かおうとする自身
の姿と内面の暗喩でもあろう。そして、春の日を胎内にまで
爽やかな明るさと同時に、窃かに近寄る不吉なものをも思わ
集め満たして、命を育む同性の姿を眩しく見つめている
。
三首目。新転居地縁(ゆかり)のイタリア人宣教師シドッチにつき、
綿密に調べ作品化した、読み応えのある一連の一首。切支丹
屋敷跡から見つかったシドッチの遺骨が、三百年見上げた江
戸の夜空の星を、同じ地から今しみじみと見上げている。
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