画像で見る「りとむの風景」
< 東 京 歌 会 紹 介>
(
(2019年1月)
2019 年 4月井 本 昌 樹
東京歌会 2019年1月 井 本 昌 樹
初春の穏やかな日に恵まれた一月の東京歌会では、次の歌たちに心ひかれた。
羽ばかりの食べのこされる夏の道夢の味してま
ずいんだきっと 土井 絵理
夏はもう今日でおしまい草をふく風にきつね
の色が走れる 北川 美江子
そこは開かないでおくかをふたりともバッグ
に入れる月をみつけて 高橋 千恵
一首目は、第十九回りとむ二十首詠の、第一位作品に選ば
れた「ラルゴ」の一首。全体は、テーマを持たず作りためた
歌を纏めた一連から、自らは分からず探し集めた憂いが浮か
び上がってくる成り立ちの、土井さんの持ち味にぴたりと
合った作品となっていると評された。掲出歌夢は、羽撃く翼
からの連想から提出されていると思われるが、仄かな憂いと
傷みを伴う、名状しがたい感興を呼び起こされる。
二首目。わずかに色づきはじめた草をわたる風に、夏の終
わりと、秋の到来を感受している。終焉を宣告するような上
の句からは、酷暑から開放される安堵感が伝わり、この上は
考えられぬほど見事な下の句の表現からは、草をわたる風の
輝きが見え、秋の真向かう作者の息衝きが伝わってくる。
三首目。上京した幼友達と半日語らいながら、互に最も聞
きたかったことは聞かないこととして別れようとしている。
ある年代の自立した女性の抱く、切実な思いに胸をうたれた。
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