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「第13回 オンライン歌会 報告記」 


令 和 5 年 6 月

天 野  陽 子
 
  

「第13回オンライン歌会 報告記」

令和56月 天野陽子

 

梅雨の中休みのように、外は晴れ間の広がる2023618日、

    第13回りとむオンライン歌会が開催された。

    歌評対象は「りとむ」5月号掲載歌である。

    冒頭の「今月の十首詠」より、掲出歌のみ ならず、

    十首をどう構成するかの考察が深く、歌の主題性と展開

    への妙技に感服させられた。

 

昭和期の文庫版伊勢物語ひらけばいつもバニラが匂う

北川美江子(「りとむ」5月号:2頁)

  歌評者の今野先生はまず、十首全体で「生老病死」がだいたい

   揃っていると説いた。業平の恋の苦悩、九十九髪の老女との

   逢瀬など『伊勢物語』の面白さに触れたうえで、掲出歌は物語に

   一時浸り<おうなおうな恋に生くべしいつの世も語り草なる媼

   の恋は>と五首目に展開、「老」を滑稽に詠み込んでいると

   評された。

さらに一連からは、大きなテーマに向かう心を感じるともいう。

   意味をもたせるには、十首は小さなひとまとまりに過ぎないと

   いう苦しさはあるが、身の回りの小さな素材から伺える人間社会

   の 生老病死などを意識して歌にすることで、一歩進んだ展開

   にもつながると、主題性の兆しに期待を込めた。

 

 歯ごたえのほど良き蛸のぶつ切りに酒の弾けるここ日間賀島

                  倉重惠造(同:3頁)

掲出歌は、旧友の誘いに二つ返事で出かけた日間賀島での一首。

   よい旅、よい酒、よい肴のある島でのひと時、そのハイライト

   でもある酒宴の歌であり、蛸も酒も実に美味しそうに詠われて

   いる。

今野先生は、釣ったばかりの刺身の旨さを「ほどよき」と表現

  したのが効いていると評された。十首の流れについても、どの

  ような形にしたら自分の体験の良かったことが伝わるか。

  イントロもあれば エンディングもあり、歌の順序、展開、肉付け

  具合などよく考えられている一連、と作者の構成力を高く

  評価された。

 

約束をすれば壊れるかもしれずそっと待ちいる 偶々を待つ

                                                    東野登美子(同:22頁)

 あえて約束をしない。それによってむしろ、その機会を大切に

  したい作者の願望が強くなる。逆説的な文脈で「会う」ことを

  表現した一首である。歌評者の三枝先生は「待ちいる」「待つ」

  と
言い かさねることによって、約束するべきことを大切にする

  気持ちがよく出ていると 述べられた。

 また、この歌会では斎藤範直さんの質問を契機に、一字空けに

  ついて言及が重ねられた。三枝先生も掲出歌では「かもしれず」

  の後も一字空けの候補になると示し「待ちいる」と「待つ」と

  動詞の形が違うことから、厳選するとやはり結句の一字空けが

  落ち着くだろうと見解を示された。作者からも四句目まで自然に

  つながった、結句の前に隙間を置きたかったと回答があった。

  今野先生からは、

  基本的に空けることはしないが、あえて「間」をおきたい気分の

  時や漢字表記が続いて読みにくさを回避する場合などに採用

  すると よい、との話もあった。

 

二個ください負荷をください傾かぬように朱欒と北風を行く

             氏家長子(同:54頁)

まず初句に意表をつかれる、と歌評者の和嶋さんは開口一番に

   延べ、これから風に吹かれて帰ってゆく私が傾かないように朱欒

   の重さを利用するというのが、読みすすめうちに腑に落ちると

   解した。さらに、結句は何かの比喩であるとして、ユーモラスな

   内でも 自己観察ができている、健気さを表わしている歌と述べ、

  十首全体でも現実離れしているところからの引き取り方が、

  どの作品も巧いと評価された。筆者もこの日のなかで、

  特に印象に残る一連だった。


  

 

 
 



   

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