◇「歌会始の儀」体験記 松山紀子
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、延期となって
いた宮中行事「歌会始の儀」が三月二十六日、皇居「松の
間」で行われた。十二月中旬に入選の電話を受けてから
三か月半、不安と重圧で押しつぶされそうであった。無事
に 晴れの儀式に参列できた今、安堵でいっぱいである。
当日の朝、他の預選者三名と共に、宮内庁の車で皇居へ
向かう。今年は一般公開されていない乾通りは桜がちょう
ど満開。儀式まで控えていたのは、一般参賀の際に皇族
方がお立ちになる長和殿であった。宮内庁の方はサービス
満点、バルコニーも見せて下さるが、こちらは緊張で
じっくり観察する余裕がない。
その後、松の間へ向かう。皇族方がお出ましになる。
今年は出席者を大幅に減らした為、皇族方の姿がとても
よく見える。披講者の間に、私の席からは皇后さまが真正
面に見える。名前を呼ばれて預選者が礼をする時、
皇后さまも礼を返されている。自分の番が近づいてくる。
名前を呼ばれ、立 って一礼して自然に視線を下げると、
皇后さまを見下ろす形になってしまう。視線の先を披講者
の背中に定めるまで、目が泳いでしまった。自分の番が
終わった後は、比較的落ち 着くことができた。
天皇皇后両陛下がコロナ収束の願いを詠まれていたこと
には、深く感動した。
今回、「歌会始の儀」に参列して驚いたのは、
とにかくよく歩いたことだ。広い宮殿を行ったり来たり、
先述の長和殿、 宮中晩さん会を行う豊明殿、
また宮内庁にも行く。行く先々に美しい絵が飾られて
ある。
あれは東山魁夷、あっちは誰だろうと思うが作者のサイン
を見る時間はない。
お庭も源氏物語の胡蝶の巻を連想させる美しさであるが、
通り過ぎるだけ。夢の時間は過ぎた。
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