背表紙の金色ゆるんであくびする書庫には誰
 も近づかぬ午後
          樋口智子

 
この日は、はるばる札幌から樋口智子さんが来てくれた。「たっぷりいじめてあげましょう」という三枝氏の言葉に、和やかに会は始まった。その樋口さんの一首。発言者の反応は「ものすごくわかる」だったり「???」だったり実に様々。私自身「書庫」といえば図書館の湿った薄暗い場所と想像していたが、すぐにそれは思い込みかもしれないと思った。ただ「書庫」というだけで、それ以上の詳しい場面設定がない。そのためそれぞれが自分に身近な「書庫」を思い描くことができる。「場面設定を読者に委ねることの効果」という今野氏の評。たしかに「ゆるんであくびする」本のイメージがその場面にどう収まるか、人それぞれの見解が飛び交い、この一首で歌会の醍醐味を多いに味わうことができた。お土産の「白い恋人」も美味しかった。

 ひなっちゃん、樋口奈津、なつ、夏、夏子、
 樋口一葉三月生まれ
      千家統子

 もうひとり、話題の「樋口」さんの歌。これをよみながら、私は机の下でこっそり指を折って数えてしまった。ちゃんと三十一文字に収まっている。まずそれだけで拍手ものなのだが、一番の旨味は結句。これが「七月生まれ」では意味がない。ひねって着地しているところがこの歌の上手さであり、このような言葉あそびを効かせた歌をつくるポイントなのだと、非常に勉強になった。
 
それにしても、この事実に気がついた千家さんの着眼力はすごい。私はひとり、心の中で「三月かよ!」(三村風)とツッコミを入れずにはいられなかった…。

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