歌集『リカ先生の夏』自選二十首          里見佳保 


ため息のかかる近さで見たかった津島修治によく似たひたい

美意識がテーマの講義聴く時にあなたと肩の触れ合う弥生

思想などもたぬわれにも響くなり青年僧のまつげの長さ

教会の塔はクーピーの青となり未明の空に詩を書き写す

らりらりと熱くわき立つ湯のなかに息つぎもせずたまごは踊る

切り抜いたように静かなテスト中寒太郎来てよくしゃべる午後

目を閉じて桃のにおいをかぐように深呼吸するついたちの朝

椿折るほどの高さに手を伸ばし吉井勇の歌集を選ぶ

病める子の枕のくぼみそのままに廃院となる重田小児科

心から先に目覚める朝なり異国の水に顔をすすげば

夏雲が川越えてゆくおおらかさ男同士の会話のように

君と会う夢のさなかに鳥たちは塩のこぼれるようなさえずり

ひらかれた手紙のようなひまわりの丘へとうでをとられつつ行く

ああ、ぐうを出してよかったこの次は百年経ったら交代しよう

対岸はわずかに早く暮れゆきぬとりのむね肉色の夕空

鈴虫を封じた帽子置いたままサーカスの子はこの地を去れり

ボートより銀貨こぼれて沈みゆく水中都市の流星として

船ゆきしあとの水面を思うべし曲と曲とをつなぐ数秒

半日は電話鳴ることなく過ぎて梅の香りが膝まで溜まる

あの夏の想い出はまたきっと咲く掌のなかひまわりの種





























































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