歌集『龍笛』自選二十首    今野寿美

 青天はかんと冬なる遠さ置き人は心に天秤を置く

  それはまあ無理といふものこんなにも小さいわたしが産んだ子だもの
                              
さうだ さうだ
 あしひきの浅間いよいよ凍てながら是、是と立ちたり今日も

  細身なる鮎に鰭ありつい焦がす胸の位置なりせつなかりけり

 龍笛の指にふさがむ孔ななつ似つかはしきはをみなの身幅

  篠笛は女竹の裸身鳴るなればせつせつと息吹きこまれたる

    啄木はそして啄木居士となり四月よく降る 都の雨が

 子はみんな溺愛すべし馬鈴薯は花を見るべし面取りすべし

   さをしかの春の素足を折る眠り風にも立つる耳をかなしめ

          東海村臨界事故

   とことはにウランは少女の名であればあな青白き光不意打ち

 思ひ出は雪の色して降るものか父よ、も一度傘をささうよ

  〈晩年〉をたてかけておく柱こそあらな春にはひばりあがらむ

 菊坂の露地におそらくつねづねを小走り小をんな樋口一葉
     
コンビニ                         ふ た た び つ か へ
  便利商店の袋に赤きお願ひは「請重複使用本袋」小さくたたむ
                            
ウォーチーウォーチーチー
 韻律論に繰り返されてこころよき五七五七七鳥鳴いてゐる

  芭蕉庵に内妻寿貞尼残されて枯野の夢のときすでになし

 張りつめてゐたる心に降りゆきて打てばひびくか触れなば泣くか

   子供でも子どもでもなく風かよふこどもと書いて子のかたちなり

 いづくよりきたりしものか真名一字そよぐ、たたかふ、をののく、いくさ

  双塔の鐘のひとつに傷なくて黒き地に人は据ゑき祈りき










































































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