会 員 の 広 場

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 さぬきの国から(3)」
~栗林公園~


2023」年01月


氏 家  長 子

 
               さぬきの国から(3)
              ~ 栗林公園・冬 ~
                                  
                                                   氏家長子

   コロナ禍にあっても、栗林公園にはキラキラした思い出が

  あります。2021年11月に、三枝先生が四国短歌セミナーの

  講師として高松においでた際に、りとむの仲間と共に栗林

  公園を散策しました。三枝先生には、ご講演前の慌ただし

  い時間帯ではありましたが、今でも忘れられない思い出です。

   地元に住んでいると、「いつでも行けるわ」の感覚で、公園

  の前を通っても中に入ることはめったにありませんでしたが、

  この時をきっかけに栗林公園に目覚め、時々訪れるようにな

  りました。季節や天候、時刻によって、またその時の心境に

  よってさまざまな表情を見ることができる美しい庭園です。

 

 〈特別名勝 栗林公園〉 文化財保護法で特別名勝の指定を

  受けている大名庭園八園のうちのひとつです。他には東京都

  の「浜離宮恩賜公園」や「小石川後楽園」、近いところでは

  岡山市の「後楽園」などがあります。

 
  その歴史は1625年頃、当時の讃岐国の領主・生駒高俊公に

 よって原型がつくられました。この頃、讃岐の国は大干ばつで

  あったため、遠州浜松生まれの土木家、西島八兵衛が讃岐

  の国に迎えられて15年間在住し、満濃池の大改修など、ため

  池や河川の工事とともに栗林公園の築庭にも携わりました。

  その後、初代高松藩主・松平頼重公(水戸光圀公の兄)に引

  き継がれ、5代頼恭公のときに完成、その後明治維新まで

  松平家の下屋敷として使用されました。

   広さの単位として東京ドームがよく用いられますが、地方に

  住む私にとってはあまりピンときません。それでも使わせてい

  ただくと、栗林公園は平地で東京ドーム3,5個分、背景を構

  成する紫雲山の一部を含めると東京ドーム16個分だそうです。

 公園の名前が栗林なので、栗の木が植えられているかと思

 われがちですが、栗の木はありません。栗の木は江戸時代、

 飢饉に備えて後方の紫雲山に植えられていたそうですが、

  この山が栗の木の生育には適さず、姿を消したようです。

  ですから栗林公園の名前の由来は、今でもはっきりしていな

  いようです。

   園内には栗の木ではなくて、1,000本以上の松が植えられ、

 職人の手が施された美しい姿を見ることができます。この写真

 の松は〈箱松〉と名付けられています。名前の通りボックスの形

 をしていますが、これは長い年月の手入れのたまものだそう

 です。

 

 次の写真は、園内の〈飛来峰〉という地点から撮影されたもの

 です。パンフレットや絵葉書には必ずと言っていいほど使われ

 ている、ザ・栗林公園ともいえる一枚です。中でも注目すべき

 存在は、中央に写っている木製の円い橋、偃月(えんげつ)橋

  です。映画『春の雪』の舞台にもなりました。

   よみがへる聡子と清顕のものがたり木舟の通る偃月橋に
                                                        橋本 久子

 

 
   
 この2枚の写真は以前の物です。偃月橋は現在、架け替え工

 事のため足場とシートに覆われています。3月には新しい偃月

 橋が架かります。また水位の低い冬場は、和船の運行もお休

 みしています。

 冬らしい景色といえば、枯れ蓮。夏の花の頃、ここは浄土にな

 るのでしょう。蓮池なのに、〈芙蓉沼〉と名付けられています。

  蓮の花は別名を芙蓉ということも知りました。

 

 

 園内は池を中心に、島、山、橋などを作っています。人間の手

 つかずの大自然とは対照的な、コンパクトサイズの自然です。

 

 

 

  園内の西湖に流れ落ちる桶樋(おけどい)滝、これは観賞用

 に作られた人工の滝です。桶を使って山の中腹まで人力で水

 を運んだところからこの名前が付けられたそうです。現在は

 ポンプで水を汲み上げています。このように、「ここまでこだわ

 るのか」と思うところが随所にあります。

   どこを見ても何を見ても、そこには人智を尽くして自然をより

 自然に近づけ、自然に還しているようにも思うのです。

  江戸時代、この園でどのような社交の場を繰り広げていたの

  か、時間を巻き戻してみたくなります。

 

 飛び石を渡って、池の向こうの茶寮に行きます。冬は池の鯉

 も動きがゆっくりしているようです。茶寮の入り口では、お土産

 として〈おいり〉が販売されていました。
 
 

  子どもの頃、近所にお嫁さんが来ると、このおいりを配ってく

 れました。幸せを呼ぶお祝い菓子なのです。その風習も、

 香川県の西部の地域限定であることを、最近まで知りませんで

  した。嫁入りおいりを当たり前に思っていた私は少なからず

  ショックでしたが、今でもおいりは自分で買う物ではなく、いた

  だく物と思っています。

 どこの飲食店も、メニューにさぬきうどんがあります。りとむの

 方達とここに入ったなあと懐かしみながら、あの日と同じうどん

  を注文しました。香川県には美味しい物が他にもあるのです

  が、三枝先生にはうどん屋しかご案内しなかったことを少し

  後悔しています。この次おいでてくださった時には、最高の

  オリーブ牛のお店を予約しておきます。

 

 栗林公園には、サクラ、ウメ、モミジの高松市標準木がありま

 す。今年のウメの開花は1月13日、咲き始めた梅の花に春も

 そう遠くないことを感じます。

 

 



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