会 員 の 広 場

<45>「 異国での日本語」

2022年10月


山 口  文 子

 
      「異国での日本語」    山 口  文 子

  2018年の8月に再渡仏して、あっというまに一年がすぎ

 た。フランス人の彼とフランスで共に暮らしていくために

 はビザが必要で、ビザ取得のための最も確実で手っ取

 り早い手段が結婚だ。事実婚の多いフランスで、事実婚

 さえしないカップルも増えている今、当初お互いに結婚を

 考えてはいなかった。だが必要に差し迫られた形で結ば

 れ、まぁこれがご縁というものだろうとおもしろく思って

 いる。

   2015~6年にワーキングホリデービザを取得して

 約一年暮らしていたパリ。当時はテロがあったり空き巣

 に入られたり恐ろしい思いや苦労も多かったが「一時滞

 在」という気楽さが根底にあった。

  今回は「移住」となり、生活の基盤を移す大変さは未だ

 に感じている。移民局で滞在許可証をもらってから、約8

 か月にようやく保険証が届き、先日初めて歯医者に行く

 ことができた。目下一番の心配はビザの更新だ。既に一

 年で切れているのだが、更新するためにプレフェクチュー

 ル(警察署)の予約を取らねばならず、6月の段階で予約

 手続きをしても10月以降しか空きがなかった。なので現状

 は「レセピセ」と呼ばれる「申請手続き中」であることを

 示す書類が、仮の滞在許可証となっている。なにをする

 にもこの調子なので、カリカリしていては身が持たない。

   ワーホリの「一時滞在」時は「できるだけフランス語に

 触れていたい!」と、日本人との交友はパリ短歌クラブや

 映画関係など最小限だった。だが基本的にこちらに暮ら

 すとなった今、フランス語は「暮らしているうちに覚える

 さ」と一気に向上心がなくなり、日本語で興味ある話題

 について盛り上がれる時間は大歓迎である。ストレスも

 多いなか、自分にとって心地よく生きていきたい、という

 シンプルな欲求に素直になったと思う。

   昨夜は日本人のお友達の家のソワレにお招き頂いた。

 彼も一緒だったが、他は皆日本人で計七人。フランスでの

 暮らしについて、夏のバカンスについてetc…19時から

 アペリティフが始まり、延々と話しながら0時過ぎによう

 やくデザート。日本語で語っていても、スタイルはすっかり

 フランス人のそれである。10年、20年とフランスでサバイブ

 してきて人たちの体力・気力というのはすごいものがあり、

 私はまだまだだなぁと思いながら夜の1時前には離脱

 した。帰宅しても甘い白ワインのせいか、すっかり眼が冴

 えてしまい、久々に明け方5時までしっかり読書をしてし

 まった。「外国に暮らしていると日本語が下手になる」と

 いう話題が出たばかりなので、久々に近代日本文学など

 読みふけり、自分の半端なフランス語力と日本語力を哀

 しくも思うのだった。 

 パリ市庁舎

   

 

 
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