会 員 の 広 場

<41>「  お隣は野鳥観察園 」
  
2022年5月


山 口  弘 子



    お隣は野鳥観察園       山口弘子

   我が家のある団地の、道路を隔てたお隣は野鳥観察園だ。四つ

   の観察小屋から眺められる人工干潟と汽水池、淡水池があり、樹々

   の緑豊かな野鳥観察園は、野球場やサッカー場もある広い長浜公

   園の半ば以上を占めている。

 
 公園のMap

 高度成長期、横浜市の最南部、金沢区の海沿いの広大な埋め立

 て地に、大規模開発された集合住宅群の町であるシーサイドタウン

 は、あらゆる道に並木を配しているほか、公園も多い。一丁目から

 入居が始まったのは1978年だったという。我が家が入居したのは

 1984年の春で、三丁目のこの辺りはまだまだ空き地が多く、雲雀の

 声が降り注いでいた。隣の草の生い茂る広い空き地の中央に池面

 が覗いていたが鉄条網に囲まれ、立ち入れなかった。

 巨大スーパーとショッピングセンターができ、シーサイドライン

 が開通し、スポーツセンターができた。いつの間にか、空き地

 は無くなっていた。長浜公園が整備され、隣の草原は1992年

 に野鳥観察園に生まれ変わった。

 1992年と言えば、りとむが創刊された年ではないか。

 越してきた翌年生まれた次女、文子が小学生になって、私はりとむ

 に入会したのだった。今回、りとむ創刊号を出してみて、冒頭から

 「夕あかりたたえる池面に浮く鳥のたしかに揺れおり波もあらぬに」

 など、三首も鳥の歌を出していたことに驚いた。 

 そして、りとむの歌会で、野鳥と野草にめっぽう詳しい近藤洋子さん

 と出会った。朝日カルチャー藤沢教室で、近藤洋子さんが今野先生

 をバードウォッチングにお誘いした。今野先生は日本野鳥の会に

 入られ、神奈川支部の重鎮、畑俊一さんを案内役に、探鳥会が

 何年か続いた。今野先生が二度も「大男」と歌われたほど大男の

 畑さんは、まことに温厚な紳士で、今野先生のナイトをもって任じ

 ておられた。二十回ほど続いた探鳥会で、いろいろ連れて行って

 頂いたし、野鳥だけでなく、蝶や樹木まで自然に関わる何でも教え

 てくださった。環境と良き友、そして良き師までが揃い、野鳥は私

 の暮らしの一部になった。三枝先生も参加されて川崎アルプスと

 言われる丘陵地帯を歩き、オオタカを見たのは忘れ難い。

 オオタカの凛々しい横顔と縞のある白い胸、いかにも猛禽類らしい

 ぶっとい脚を見た。

 畑さんが野鳥の会の助っ人二人を頼んで下さって、今野先生と

 藤沢教室の三人と丹沢の檜洞丸(1601)に夜間登山をご一緒

 したのは、なつかしい。鳥は夜明けとともに鳴き出すからと、

 最終電車で待ち合わせ、タクシーで登山口へ。真夜中にヘッド

 ランプを付けて登山を開始した。暗闇からのヒョウー、ヒョウーと

 胸を掻きむしるような声はトラツグミ、別名、鵺だった。「三個体

 いますね」などと野鳥会の方たちは言われ、感心したものだ。

 夜が白々と明けると同時、というよりその寸前から小鳥たちが

 鳴き始めた。すぐ近くの枝先に、小さなミソサザイが顔いっぱいに

 口を開けて珠を転がすように囀っていた。明け方の淡いピンクに

 染まった富士山の美しさ・・・。
 
 今野先生が夜間登山を歌われた「ひのきぼら丸」六首から。

  あかときのほころびとして降る声のコルリに醒むる六月の空

                  『かへり水』 今野寿美

 今野先生がどんどん多忙になられ、探鳥会はなくなってしまった

 が、野鳥への親しみは深まっていた。近藤さんと逗子の山に

 サンコウチョウを見に行ったり、野鳥に会いによく歩いた。

 近藤夫妻に連れられて、ピレネーやウェールズまで鳥を見る旅

 もした。

 
 〇汽水の流れのある景色

 観察小屋に置かれたMapに「長浜公園で見られる鳥たち」として

 次の名が挙げられている。

 「カワセミ、ハクセキレイ、カワラヒワ、トビ、ゴイサギ、

 アオサギ、コサギ、ダイサギ、カルガモ、オナガガモ、

 アカハラ、シメ、モズ、アオジ、ツグミ、ジョウビタキ、

 マガモ、ヒドリガモ、コガモ、カイツブリ、キンクロハジロ、

 キアシシギ、コチドリ、カワウ、など」

 汽水池まで自然の小川を模した流れが海から続く。

 流れに突き出した枯れ枝はいわゆる「お立ち台」、

 カワセミが止まるポイントで、この観察窓には大きな望遠レンズ

 を構えたカメラマンが群がる。鴨など水鳥を見分けるには双眼鏡

 を使うが、私は歩いて出会う目視が基本だ。この一年で、

 キアシシギを除くすべての鳥を目視している。

 毎日歩いているとMapのリスト以外にメジロもいるし、シジュウカラ

 は増えている。つい数日前、花の散るソメイヨシノの幹から枝へと

 縦に動いていたのはコゲラだった。ぎぎぎ、と鳴いてパートナーを

 待つ風情だった。ヤマガラは同じ茂みで何度か見ている。

 カシラダカにも出会った。美声のイソヒヨドリと会えると嬉しい。

 ウグイスはリストに挙げられておらず私も姿は見ていないが、

 声は我が家にまで届くほどよく鳴いている。大声でよく聞こえるの

 は、コジュケイだ。「チョットコイ、チョットコイ」と元気が良い。

 あとひと月ほどでホトトギスも鳴きはじめるだろう。

 野鳥観察園が出来て雲雀はいなくなってしまった。だが最初の二年

 ほど、野鳥の会の金沢支部の方たちが土曜日ごとに観察窓に大き

 な望遠鏡を据え、鳥たちを見せ、教えてくれた。鴨たちの見分け方は

 その時に覚えた。三十年前の当時、今よりずっと多くの鴨たちが来て

 いた。温暖化が続けば鴨は減るばかりだろう。

 ボラの跳ねる汽水池の小島には、まだカワウが集まり、時には並ん

 で翼を広げ干している。これからの季節は黄色いソックスのコサギ

 が増えるはずだ。背中を丸めたお爺さんのようなゴイサギや、じっと

 動かないアオサギ、純白の優雅なダイサギもまだ来てくれる。

 
 〇花菖蒲の咲く景色

 年月が樹々を育て、桜も柳も欅も榎も大木になった。桜や辛夷は
 
 散ったが、これからはヤマボウシや泰山木、合歓や夏椿が次々に

 咲く。

 花や鳥たちと出会うのを楽しみに、私は毎日歩いている。

 
  



  



 
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