会 員 の 広 場

<37>「 言葉の世界は広がり続ける 」
  S班短歌プロジェクト
2021年12月


東 野  登 美 子

 
  
   「 言葉の世界は広がり続ける 」 東 野  登 美 子
  

    2年前から、障害者支援の現場で働いています。勤務する施設に

  は、利用者さんが必要とするケアの状況に合わせていくつかの班が

  あります。私が働いているS班は、車いすがあれば動けるかた、

  ゆっくりであれば歩けるかたが多いので、清掃作業やパン販売、

  そして広く販売できる小物製品を考案し作成しています。また、

 身体機能に配慮して体を動かす取り組み、創作や学び、スポーツ

 の時間などもスケジュールに組み込まれます。

  実のところ、週4日のパートタイムの私は、どれほど役にたってい

 るのかはわかりません。加齢のためはいいわけで、幼いころから

 不器用で動きも鈍い。ひょっとしたら足手まといになっているので

 はと不安に思っていた頃、NHKの「カルチャーラジオ文学の世界」

 で、今野寿美先生の「今、心に響く歌の力」が放送されました。

  すると、勤務当初から手取り足取り仕事を教えてくださった看護師

 さんが放送を聴いて、とても心を動かされたとのこと。さっそく知り

 合いの人たちに薦めてくださったのです。これがきっかけとなり

 短歌に興味を持った職員から、日常の利用者さんの取り組み

 のなかに「短歌の時間」を設けてはどうかという提案がありま

 した。とにかくやってみましょうということで、S班短歌プロジェ

 クトが始動。何よりも利用者の皆さんが興味を持ち、楽しんで

 くださるためにはどうすればよいかを考えながら、手探りで

 の準備を経て「S班の短歌の時間」が始まりました。


 初回は、短歌について基本的なことをお話したあと、よく知られて

 いる短歌や中高生の入選歌などを鑑賞。そのあと、どんなものを詠

 んでみたいですかと伺ったところ、7月だったこともあり、「暑さ」

 「夏祭り」「花火」など、または時節柄「コロナ禍」を詠んでみよう

 かな…とのこと。では、それらについて、各々イメージを膨らませ

 てみましょう、ということで一回目は終わりました。

  次は、職員数名が、利用者さんひとりひとりとお話をしました。

 「詠みたい」と言われた題材に関連した話をしながら、その過程で

 生まれてきた言葉を聞き取ってメモ。なお、聞き取りは、利用者

 さん各々の身体状況に合わせて、文字盤&ペンやペチャラ

 (文字盤の文字キーを押すことで文章を入力・作成。入力した

 文章は発声キーを押すことで読み上げる携帯用会話補助装置)

 を使いました。または、経験豊富な職員が、身体の奥の方から

 ゆっくり湧き上がってくる利用者さんの言葉に耳を澄まして、

 しっかり受け取って記録しました。


※文字盤&ペン
    

※ペチャラ
    

 そのようにして書き出した言葉を、もう一度利用者さんとお話し

 ながら、五文字の言葉、七文字の言葉になるように工夫して、

 最後に五七五七七のリズムに乗せてゆきました。まさに、

 S班の共同作業です。やがて、笑顔で「浮かんできた言葉を

 メモして」と職員に申し出てくださる利用者さんも現れ、

 その都度記録し、一緒に推敲しました。
 
   そして、秋となりました。とはいえ、気候変動のせいか晩夏

  のような9月下旬。11月の「創作担当」となったS班では、この

  機会にS班の利用者さんの短歌を展示しようという案がださ

  れました。「創作担当」の班は、施設内に飾るオブジェや絵画

  などを制作します。「如何にして美しく分かりやすく親しみやす

  く短歌を展示するか」

    チームS、その実現にむけて再び動きます!

  秋、なので、「秋を詠もう」ということで、秋を探して散歩に出か

  けましたが、いまひとつ秋らしくない気候です。が、そこは、風

  の音にぞおどろかれぬる・・・。そこまでやってきているような

  秋?を想いながら散策。

   室内では、パワーポイントで秋の画像を見ながら、秋に因ん

 だ歌を鑑賞し、以前皆で出かけた紅葉狩りの思い出を語るうち

 に、戸隠山の鬼女「紅葉」の話に至りました。そうして生まれた

 歌の数々をご紹介します。

   鬼女紅葉 能楽堂で見たいです きっときれいに舞うことだろう
     (※戸隠山の紅葉伝説より)

   シキンザン どんぐり坊や ころがって みんなあつまりホップ
   ステップジャンプ
     (※紫金山公園)

   神無月ひょいと飛び越え衣更え服も心も備わぬ霜月

   古都めぐり たんと味わい満たされる秋の実りに山の彩り

   どんぐりを 高槻の山でみつけたよ 誰が食べたの?
   みんなで食べた?

   たくさんのよごれた落葉をそうじして 気持ちがよかった
   せいけつになり

   秋の山 観月祭にあたま出す 月とお団子秋の虫たち

   夕暮れの風に流れる赤とんぼ 子どものころを覚えています

   赤黄色 もみじをほうきで掃きながら美味しい秋を思っているよ

   そらパンの栗パンふたつ 奥さんと美味しい時間これからも・・
    (※そらパン…S班が週一回仕入れて販売しているパン)

   道すがら秋の花々ながめつつゆっくりゆるり歩いてゆこう

   赤と青 白にめがけてさっボッチャ 玉のゆくえに皆で歓声
    (※ボッチャ…パラリンピックで注目された競技)

  アイスコーヒー豆が楽しくおどってる 年中生きてるコーヒー豆は
   (※アイスコーヒーが大好きで、春夏秋冬、即ち秋も、
   飲んでいますとのこと)

    さて、仕上げです。  

  それぞれの歌を色紙に清書し、紅葉に見立てた下絵の上に

  貼りました。


   S班 11月の創作作品
 

 

   The mission is completed‼   

   S班のチームワークのたまものです。 

    ふつふつと言葉が生まれるときの喜びを利用者さんと

   一緒に体験して、私もお役に

   立てたのかな…と思うことができた取り組みでした。

     S班の言葉の世界は、これからも広がり続けます。 (了)




    
  
 


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