会 員 の 広 場

<36>「 山 へ の 想 い 」

2021年11月


橋 本  久 子

 
  
   「 山 へ の 想 い  」      橋 本  久 子

  昨日、荒島岳に登ってきた。いつもなら帰ってきた次の日は腿が

  ぱんぱんに張って階段の上り下りも辛いものだが今日は全くどこも

  痛くない。身体にやさしい山だったのだろう。

 

    荒島岳は『日本百名山』著した深田久弥の故郷の山である。身贔

  屓で百名山に入れたという説もあるが能郷白山と荒島岳をどちらに

  するか悩んだとき、山の気品という点で荒島岳のほうが上だったと

  いっている。

  

  

  百名山を選ぶ基準として「山の品格」「山の歴史」

  そして「個性」のある山を挙げている。これに付加的条件として

   高さ(1500m以上)も入るのだが氏らしいこだわりであろう。

     短歌を詠むようになって実に多くの歌人たちが山に登り、山を

  眺め、山を思い、歌を詠んできたことに気づく。思いついた歌人

  たちを挙げてみよう。

  窪田空穂、佐々木信綱、斎藤茂吉、島木赤彦、土屋文明、長塚節、

  正岡子規、前田夕暮、与謝野寛、与謝野晶子、若山牧水、北原白秋、

  植松寿樹、、、いずれも私の心をとらえた大歌人たちである。

  日本の短歌界を率いてきたこれらの歌人の歌を読むとき、山や自然

  がどれほど彼らの心をとらえていたかがわかる。山好きの私にとって

  とても嬉しいことだ。

    ここに「なぜ山に登るのか」という問いがある。これにに対しての

  有名な答えは、エベレストの先蹤者ジョージ・マロリーの「それが

  そこにあるからだ」である。エベレストを初登頂したのは

  エドモンド・ヒラリーだが彼はこの質問に対してマロリーの言葉を

  借りて全く同じ答えを返したのも有名な話である。ここでの「それ」

  は一般的な山ではなくエベレストを指す。ほかの山ではダメなの

  である。目的はエベレストという未踏峰の初登頂が彼らを駆り立て

  たのである。彼らの煙に巻くような言葉はいろいろ質問されるのに

  対して、山に向かうやむにやまれぬ気持ちを言い表す言葉が見つ

  からなかったからというのが本当のところだろう。私たちもその理由

  をはっきり述べることは同じ理由で難しい。

   与謝野晶子は「高きへ憧れる心」というエッセイの中で「人間が

  高きに憧れる心を幾分でも満足させることののは唯だ高い山に

  登る以外に方法がない。それだけ登山は楽しいものである。、、、、

  山頂に宿って燦爛として且つ静粛な夜天の星群を望むと、

  心も身も共に浄まる気がする。」と述べている。

    わが国の登山の先覚者小暮理太郎は「私たちが山に登るのは

  つまり山が好きだから登るのである。登らないではいられないから

  登るのである。」と言っているがこれが一番すっきりする答えのよう

  な気がする。

    さて、荒島岳であるがどの山群からも離れているため縦走はで

  きない。ある本によればこの山に登る人は百名山を目指している

  人だという。深田氏は大変ほめそやしているが登ってみれば他の

  山を凌ぐというほどでもない。梯子、鎖、ロープと難所はあるもの

  の取り立てて険しいというわけでもない。私も、この山が百名山に

  入っていなければ行ったかどうかわからない。しかし、登りにきて

  本当に良かった。登山道には美しい樹々の葉がふり敷き、足もと

  にはツルアリドオシが赤い実を結んでいる。ツルアリドオシは」

  この夏、大朝日岳で見た植物だがこの時はまだ真っ白な花だった。

  遠く離れたこの山で赤い実となったツルアリドオシに出逢えるとは

  想像もしていなかったのでいたく感動した。

     今までは海外登山に魅せられていたので百名山にはあまり関心

   がなかったのだが、ここにきてコロナの大襲来に遭い外国の山に

   いけなくなってしまった。それではと思い直して日本のまだ登ってい

  ない美しい山に登ろうと切り替えたのである。荒島岳は96座目と

   なった。計画では今年中に100座完登であったが登山道崩壊や

   緊急事態宣言の影響などで来年に持ち越すことになった。

  人のいない山は本当に清々しい。さまざまな植物や動物たちとの

   出逢い、山に流れる風や空気、頂上からの眺望。山の魅力は

   やはり一言では言い表せない。苦労して登れば達成感も格別

   である。

     来年はのんびり楽しみながら残りの4座を登り、

   そしてまた好きな山に何度でも登りたいと思っている。


 


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