会 員 の 広 場

<33>「 フ ラ ン ス の 結 婚 式 」

2021年8月


山 口  文 子

 
                                                                    
   「 フ ラ ン ス の 結 婚 式 」 山 口  文 子

  コロナウィルス感染拡大の第四波を迎えたフランスでは、8月から

 レストランやカフェを利用するために「パス・サニテール

 (Pass sanitaire)」と呼ばれる「衛生パスポート」の提示が必須に

 なった。ワクチン接種の完了証明書、72時間以内の陰性証明、

 罹患済み証明のいずれかが該当する。既に7月末から映画館や

 美術館などでも必須になっていて、客入りに大きな打撃を受けて

 いるという。

  世論としても、友人・知人のなかでも「衛生パスポート」適用

 対象の拡大は「仕方なく」も含めて賛成派が多い感覚だが、

 やはり「義務」となれば、上からの押しつけを嫌うフランス人た

 ちは、当たり前のように毎週末ごとに「反パスポートデモ」を行

 っている。]

  そんななか、初めてフランスのオーソドックスな結婚式に参加

 してきた。フランス人の夫の従妹が新婦で、既に新郎と暮らして

 5年以上、フロマジュリ(チーズ製造)を営んでいるカップルだ。

  結婚式でももちろん「衛生パスポート」が必要とされ、私は6月末

 に二度目のワクチンを接種済だったので問題ないものの、出席者

 全員がワクチンを打ち終わっているのだろうかと正直少し不安だっ

 た。とはいえ現地の結婚式がどんなものか体験できるまたとない機

 会。ヴァカンス代わりに2泊3日でリヨンの山間部にある小さな村へ

 と旅立った。

  パリ郊外から片道四時間ほどかけ、まずは14時に市役所へ。

 フランスでは市長がフランス国旗のトリコロールカラーのたすきをか

 け、新郎新婦と四人の証人、そして参列者の前で婚姻の宣言を行う。

 150人以上はいたと思われる参列者の大半は、ぎっしり並んでも小さ

 な部屋に入り切れず、建物の後ろの土手のような場所から窓越しに

 中を除き見る形で参加していた。こういう大らかさがフランス的

 だなとほのぼのする。

  15時すぎに近くの教会で結婚式。新郎新婦手作りの「結婚式のしお

 り」が配られ、地元の神父さんが式を進める。新郎、家族、証人、

 そして新婦の入場と続き、神聖な雰囲気で始まったが、神父も新郎

 新婦もちょくちょく冗談を交えるので笑いが絶えない。讃美歌はもち

 ろんのこと、皆でフランスのポップソングなども歌った。子供たちが

 新郎新婦の足元に座り込んだり駆けまわったり、杓子定規な日本の

 結婚式とはだいぶ様子が違う。

  全体で一時間半ほどだったろうか。参列者が先に教会の外に出て、

 花びらのシャワーを降らせて新郎新婦を祝う。ずっと涼しい日が続い

 ていたのに、この日は夏日で青空にピンクや白の花びらが映えてとて

 も美しかった。新郎新婦もこの日一番の笑顔を見せていた気がする。

 ここで全員参加の記念撮影。

  その後、パーティー会場に移動して「ヴァン・ドヌール

 (Vin d'honneur)」と呼ばれるカクテルパーティー、

 そしてディナーというのが一般的な結婚式の流れらしい。

  今回も村から町会場へと車で移動し、18時頃からカクテルパー

 ティー。100名ほどが残り、21時からディナー開始。仕切るのは証人

 たちで、プロの司会者などもいないので、進行はかなりのんびりして

 いた。レクリエーションやビデオ上映など挟みながら、

 デザートが出てきたのは0時すぎ。

  1時頃からダンスパーティーが始まり、10歳に満たない子供たちや

 70過ぎの方々も、深夜にノリノリで踊っている。私は体力が持たず

 2時前には離脱したけれど(会場横のホテルを予約していて本当に

 良かった)、朝の4~5時までダンスが続くのが普通らしい。

 フランス人の「パーティー体力」には心底驚嘆させられる。

  ちなみに翌日は昼から再び集まり、のんびり飲み食いしてゲーム

 などに興じる。結婚式も長距離移動の電車も、抜き打ち的に「衛生

 パスポート」のチェックがある可能性を聞いていたが、

 そのようなことはなかった。

   大変「密」な結婚式を、文字通りお腹いっぱい満喫し、

 日本とフランスの結婚式との決定的な差は、時間の長さと自由度

 にあると身をもって知った。

    


  
  


【 トップページへ     【 バックナンバーへ 】
inserted by FC2 system