城のある町で 生まれたら
辛い時には 坂道のぼれ
見返り坂を抜けて 振り向けば
どうにかなるさ 瀬戸の青い海 (一部抜粋)
守れ権現 夜明けよ霧よ 

  山はいのちのみそぎ場所

          北原 白秋

 
会 員 の 広 場

<25>「 東京・白金台雑感」

~プラチナ通りの今昔(いまむかし)~

2020年5月


西 塔  玲 子

 

   「東京・白金台雑感 ~プラチナ通りの今昔(いまむかし)~ 」   
                                                                           
                                   西 塔  玲 子

   今から30云年前の秋、東京は下町、墨田区の東向島で生まれ育った

 私は結婚して初めて家を離れ、港区白金台の住人となった。

      築45年の部屋は、よく言えばレトロ。

  エレベーターもないコンクリの箱のような建物は、高級住宅地の中でそこ

  だけ時が止まったようだった。

      もっともその当時の白金台は、いまとは違って何もなかった。

  地下鉄も、ファッション雑誌に載るようなお洒落な店も人たちもいなかった

  1件だけあったスーパーは超高級で、秋刀魚が一匹1000円していた。

      目黒通りから明治通りに向かってゆるやかに延びる外苑西通りは、

  まだプラチナ通りなどと呼ばれることもなく、ほんとかウソかユーミンが来る

  というレストランと、小さなチョコレート屋さんがあり、どこか神秘的な銀杏

  並木の道だった。

      その後ほどなく夫に辞令が出て転居することになり、翌年の5月、新緑

  の銀杏並木に別れを告げて、桜の季節を迎えた盛岡に移り住んだ。

  以来およそ25年、子育てや度重なる引越しに追われて訪ねることもなかっ

  たが、9年前の夏、思いがけずまた白金台から歩いて10分ほどのところに

  住むことになった。

      ロンドンから戻って借り住まいをしていた住宅がとり壊されることにな

  ったこと、御殿場で独り暮らしをしている母を東京に呼ぶためなど、理由は

  いくつかあったが、夫の転勤がおそらくはもうないだろうとなったことが大

  きかった。

      いざ住まいを定めるときには相当思案に手間取るかと思いきや、夫が

  ネットで見つけた部屋をふたりで2回見にいっただけで、あっけなく事は決

  まった。

  前に住んでいたのはご主人がカナダ人の一家で、ちょうど東日本大震災

  のあとだったけれど、カナダに帰るのはそのためではなくて、

  ふたりのお嬢さんの教育をカナダでしたいからだ、といった。

  鍵を引き渡されるとき、「私たちはここでとても幸せな時間を過ごしました。

  あなたがたもきっとそうなる。」といってくれたのが嬉しかった。

      久しぶりに歩いた白金台の街は大きく変わっていた。

  地下鉄ができてレストランやファッション関係の店が増え、マンションがたく

  さん建っていた。

       ファミレスや100均、普通値段のスーパーに、安売りで有名な

  「ドン・キホーテ」までできていた。

  若い家族連れがベビーカーを押して休日の買い物を楽しみ、街全体が活

  気と色を帯びて明るくなったが、見つけられなくなったものも多かった。

  日々の買い物をしていた小さな八百屋さんや、頂き物の新巻鮭を持ち込

 んで捌いてもらった魚屋さんは消え、私たちが住んでいたところも子ども

  が走り回る公園になっていた。

       どこか昏かった外苑西通りはプラチナ通りと呼ばれ、おしゃれなカフェ

  やレストランが並んでいた。だいぶ育った銀杏並木の緑だけが、その変化

  を見続けていたように優しく揺れていた。

  この外苑西通りは将来環状4号線の延長に伴い、品川駅までつながる計

  画がある。そうなるとこの街はまたいっそう変わることだろう。


   よく旅をして来し家族とおもひたり平成の世の三十年を 西塔玲子


   家族の旅はひと段落し、昨年娘が嫁いでまたふたりになった。

 30云年前に始まったわたしの旅は、今度はここに根を下ろし、新たな

 ステージとなって続いてゆく。そのためにこの街に呼び戻されたような気が

 して、ときどき白金台を歩いてみる。

   

                              <  :プラチナ通り >


              次回は「五反田パワースポット巡り(仮題)」です。
 



【 トップページへ     【 バックナンバーへ 】
inserted by FC2 system