今 月 の 十 首 詠

第  3  回  
(2022年9月

安 齋   英 子



         
風のそよそよ    安齋 英子

      終(つい)の絵があわいひかりの中にある
   すずしいほどに乳いろの窓

      
   夜更けには本降りとなる雨だらう
   雫ひとつぶ藤の花房(はな)より

   くるりんと丸めて終はる「る」の文字
   連ねてるるる春日も暮るる

   強がりを言ひては時に疎まるる 
   私ですか枳殻(からたち)の棘

   断捨離のルーツは鴨長明に
   ありとよ木暮いよよ深まる

   ナツツバキ咲けば雨の季くれぐれも
   自愛なされと吾子への手紙

   我に無き潔さもて沙羅の樹は
   真っ逆さまに花首落とす

   わが特技坐ればすぐに眠ること
   さういふ夏がまた廻り来て

   おつとりとしてゐるはうが好ささうな
   吾の海馬に夏の鞭当つ

   利き手にて扇子使へば忙しなき
   風になるとぞ祖母の誡め

   祖母(おほはは)の教へのひとつ左手
   (ゆんで)にて扇げばあをき風のそよそよ

   
   「歌評」今野寿美

   人生訓として耳を傾けたくなるあれこれに
   うなずいてしまう。最後の一対の二首は
   その意味でも印象深い。胸元広げて
   ばたばたなんて、いっそう暑苦しい。
   左手(ゆんで)効果ってあるものなんですね。





  

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