今 月 の 十 首 詠 第 2 回 (2022年6月) 坂 本 ま ゆ み |
女 取 湧 水 坂本 まゆみ 終(つい)の絵があわいひかりの中にある すずしいほどに乳いろの窓 描(か)きかけの赤の一輪さえざえと終の 窓辺にあかるんでいる となりあう空席に亡き友も呼び歳晩に聴く 竪琴(ハーブ)のブーケ 両頬を白い指(おゆび)が触れてゆく 記憶 はいつも比喩だと思う 幾筋の静脈あおく細く垂れ地下をくぐって 女(め)取(とり)湧水 極寒の甲斐駒ヶ岳のふもとには溢れ やまない湧水がある 一月の川となりゆく湧水のその辺(ほとり) には獣も集う 女取川、この名しかるべからずとう声しば たたく川の両岸 うすく張る氷の上の病葉が息するように 動くことある 自らを恃むがごとくずぶぬれの朝の カラスが羽を広げる 「歌評」 今野寿美 山梨県北杜市は豊かな湧水の地らしい。 水のもたらす恵を内面に引き寄せて主題化 する意識が窺える。亡き人のせつない記憶、 飯田龍太の名句の尊さ、地名のもつゆかしさ、 -巧みな筆致。 |