今 月 の 十 首 詠 第 13 回 (2023年10月) 青 木 空 知 |
きつと善き人 青木 空知 ああとても上手ですねと褒められて 飲み込みにけり胃の内視鏡 かはゆき名なれどピロリの居らざれば 良き胃の腑なり褒美のビール これもまた褒美日本の古本屋にて 見つけた歌集一冊 取り寄する古書のとびらにある名まへ 読んでほしくて著者の記せし 五十音順なれば名を早々に呼ばれ 背丈を測られし春 かつてより目方減りたりおのづから 落つる椿の花を思へり わが犬に触れてよいかと立ちどまる 名も知らぬ人きつと善き人 トルコ産有機栽培ゆつくりと 干され運ばれ和名イチジク あの人の住まふ町の名たしかむる 卯年の年賀状の束から われが呼ぶスノーフレーク君が呼ぶ スズランスイセン風に吹かるる 「歌評」今野寿美 『伊豆の踊子』の「ほんとにいい人ね。 いい人はいいね」を思い出してしまった。 「名も知らぬ」その人を「善き人」と直観した 一首の心は、すうっと理解、共感できる気 がする。愛犬などいない私でさえも。 |