今 月 の 十 首 詠 第 11 回 (2023年06月) 高 橋 照 葉 |
き さ ら ぎ 抄 高橋 照葉 右の眼に夜空のごとき死角あり 夜ごと夜空に目薬垂らす 地中海の海の青さに光る眼と ヒポクラテスが名付けし病 右の眼が見えゐるやうに左眼は われを欺く寡黙なままに 戦闘機造りし記憶塗りこめて 白球上がる中央公園 傷む国、病む国いまも泡立つに 月は明日から細りてしまふ 見落としてゐるやもしれず透きとほる 空にたとへばかすかな裂け目 不意打ちのごときは友の腑にも起き 行ったばかりのバス待ちてをり あんみつが来るまでの間に病む友は 「歌を作つてみたい」と言へり 六花また天花落ちきぬ 東京の 雪は静かに人をなぐさむ 春少し混じる夕べのアイラブユー 息子のはうの尾崎が歌ふ 「歌評」今野寿美 気がかりな眼の症状を起点として不調に陥りや すい年齢を漂う必然のなか、 病む友と向き合う。友のひと言に読者としても 心慰みつつ「息子のほうの尾崎」の歌声に 呼び覚まされるような。 人生、きっとむだじゃない。 |