今 月 の 十 首 詠 第 7 回 (2023年01月) 譲 原 陽 子 |
夾 竹 桃 譲 原 陽 子 たえまなく夾竹桃は葉をゆらし 寄り添ふ秋明菊の咲きそむ 八月六日弟一家三代の 祈る姿が新聞に載る 方位計を持つ息子にあわせ西を向き 黙祷す孫はわが膝の上 原爆ドーム近くの河岸に宮島へ 直行便の船着場たつ 材木町四五番地 慰霊碑の 石奥に父の生家はありき 爆心地より二キロの地にてふき飛ばされ 意識戻りて父が見しもの 金庫のみ残され廃墟に一人ただ たちつくしたり十五歳(じゅうご)の夏を うすき影が金庫にありぬ父はそを 祖母の最期の証と言いき あかあかと咲く夾竹桃 人類への いましめの碑は黙したたずむ 父よあなたの生きたる齢をこえました 「しあわせか」問うあなたに目(ま)守(も)られ 「歌評」今野寿美 15歳の父が負った生涯の苦悩を知るから こそ毎年のその日に祈念を欠かさない。 弟一家は三代で祈念公園へ。遠く離れた 地でも方位計に従って西向きの黙祷。 こちらも三代。父への敬愛は揺るがない。 |