今 月 の 十 首 詠 第 10 回 (2023年05月) 栗 田 明 代 |
ピカソの時代 栗田 明代 堂島川と土佐堀川に挟まれて 巨大な船になる中之島 中之島の美術館地下三階に 降りゆくわれは船のバラスト しんとしてほの暗き地下の展示室 ピカソの「青の時代」に対かう 「本を読む女」の前で佇みてウ クライナの女教師を重ぬ 文字に飢え知を求めんとシェルターで 学ぶ生徒の姿とも見ゆ 覗き込む幽体離脱せし青い 顔の女は足るを知るなり 数枚のマティスの「花」をあの時代 この時代の亡き人に手向けん ピカソ、クレー、マティス、ブラック、 ジャコメッティWWⅡを生き抜きし画家 ゲルニカの習作らしきデッサンに ためらいの線わずか残るも スパニッシュがパリで描きし絵を蒐集 ベルクグリューンの名を忘るまじ 「歌評」今野寿美 詠み入れるべき語を思考の連鎖を伴って つないでゆく語りに精彩あり。バラスト(底荷) 幽体離脱、WWⅡと一語一語が読み手の 意識にもたらす刺激もなまなかでない。 反戦の主題を冷静な語りが支えている。 |