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歌 会 の 宿

2018 年 5月


千 家  統 子  


    
歌会の宿
                                                             千 家  統 子 

    四十数年ぶりに飛鳥を歩きました。飛鳥駅から天武持統合葬陵まで

はバス。あとは一日歩き回り、最後は甘樫丘。大和三山を眺め国見の気

分に浸り、そこからバスで橿原の宿に着くというコース。山、川、遺跡が点

の記憶でしか残っていなかったのが歩いたおかげで繋がり、日本書紀、

万葉集の世界を空間として把握できた気がします。山藤も岡寺の石楠

花も満開で美しかったのですが、二万歩越えはさすがに疲れました。

昼食は、農産物直売所で買ったお稲荷さんと、〈飛鳥ルビー〉というとても

美味しいイチゴ。宿の手配は同行の妹に任せていて、〈THE KASIHAR

A〉としか聞いていなかったのですが、着いてみたら何と、りとむの五周年

記念奈良歌会が開かれたホテルでした。当時は〈橿原ロイヤルホテル〉

でしたが、名前が変わり、館内施設もグレードアップしていました。

   奈良歌会は平成九年八月末で、とても暑かった記憶があります。講演

は塚本邦雄氏。私は予習のために初めて『水葬物語』のすべての歌を読

み、「液化してゆくピアノ」「レダの靴」「魚卵孵化場」等々一つ一つの言葉

に、どういう意味が隠れているのか四苦八苦した覚えがあります。それま

で作品でしか知らなかった塚本氏ですが、その切れ目のない早口に驚い

たのも懐かしい思い出です。昨年りとむは二十五周年の記念歌会を開き

ましたから、もう二十一年も前のことになります。最年少出詠者は小学生

だった寺尾恵仁君。今やりとむの若手歌人として活躍中。こちらが年を取

るはずです。お亡くなりになった方々もいらっしゃいますが、懇親会の折に

は短歌だけでなく、人生の先輩として様々な経験をお話ししてくださって

、背筋を伸ばして生きなさいと教えられたりもしました。

   歌会の帰りの新幹線の中で、電光掲示にダイアナ元皇太子妃の事

故死のニュースが流れ、車内が一斉にざわつきました。特にダイアナファ

ンではないですがやはり衝撃的でした。東京方面の会員が多く乗ってい

たので、奈良歌会とダイアナがワンセットで記憶に残ってしまった会員は

、結構いるのではないでしょうか。

    偶然にも思い出のホテルに泊まり、部屋の窓から畝傍山に沈む三日

月を眺めながら、当時のことを思い出していました。次の日は念願だっ

た三輪山登拝をして、標高四六七・一mにある奥津磐座にお参りしまし

ました。二日後の夕方からの筋肉痛はなかなかのものでした。

  
 


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