巻 頭 エ ッ セ イ
<20> 「 宿 題 」
2019 年 6月里 見 佳 保
「 宿 題 」
里 見 佳 保ありがたいことに、毎年ある短歌大会の選考のお手伝いをさせていた
だいています。小学生が対象のものが一つと高校生対象のもの一つ。
小学生は夏休みの宿題として取り組む子がほとんど、高校生は文芸部
に所属していて書くことが好きな生徒がほとんどだと思われます。
彼らの宿題を拝見するのが私の毎年の夏の宿題です。
小学生は夏休みの楽しい思い出を歌にしたものが多く、高校生になると楽しい、うれしいということばかりでなく、むしろ迷いや悩みといった
ことが主題になって、表現と格闘しているなという印象が強くなります。
たくさんの作品を読んでいくと学校ごとのカラーが感じられたり、歌の内容
からこの子とこの子は兄弟かな、とか同じ部活なのかなとかいろいろ楽し
い想像が広がったりもします。
あっというまに作った子もいれば、指折りながら苦労して仕上げた子もいるのでしょう。いずれにしても、一首の歌をどうにか仕上げた、形にした
という経験はとても大切なものだと思います。私は私が持つことがなかっ
た、若い時代の歌を一首でも持つ彼らのことを心からうらやましく思うの
です。一つひとつの出来事は忘れてしまうことがあるかもしれないけれど、
歌に書き留めたことで時間の感触は胸に残ります。自分の歌に封じた時
間を後になって振り返って読む時、しずかな力に満たされていると感じる
ことが私自身にもよくあるからです。
今年もたくさんの歌が宅配便で届くのを楽しみに待っています。彼らの
思いは私に向けられたものではありません。でも誰かが発した思いを誰
かが受け止める時、こんなにもしっかりと伝わるものなのだなと不思議な
気持ちになります。彼らの歌に寄り添い、ひととき立ち止まることは私に
とっても必要な時間であると思います。すてきな宿題、ありがとう。
〇今日が明日への入口となる簡明さ子は宿題を終えて寝入りぬ
三枝浩樹『みどりの揺籃』