巻 頭 エ ッ セ イ

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「 い わ く に 物 語 」

2018 年 10月


原 田  俊 一 


    
「いわくに物語」
                                                             原 田  俊 一 

 私の故郷は旧薩摩藩えびの市である。NHKの大河ドラマ「西郷どん」の

幕開けシーンに紹介される「高山植物ミヤマキリシマの紫紅色の花咲くえ

びの高原」は、若き日の懐かしいキャンプ地であり、霊峰高千穂などの崇

高な自然に育まれた情感と想い出は尽きない。

 製紙会社に勤めるために、昭和31年より岩国に住み、定年後も居残り

60年余が経つ。自然が豊かで、歴史も古く、気候も温暖であり、永住の

地と決めた。第二の故郷岩国の一部を紹介したい。

 岩國は、大和朝の720年頃、5官道一つ山陽道が開設され、岩国駅家

(うまや)等が置かれる交通の要所であった。『萬葉集』中唯一の陸路の

歌「周防なる磐国山を越えむ日は手向け好くせよ荒きその道」がある。

大宰府の帥大伴旅人を見舞った勅使大伴胡麻呂・稲公の帰京に際し、

継嗣大伴家持も出席して送別宴が催された折の歌である。歌の通り勅使

両人は馬で岩国山を越え山陽道を上り帰京した。大伴胡麻呂は、後に遣

唐副使として「鑑真和上」をわが国にお導きした歴史上の偉人である。

 歴史は下り1600年、関ヶ原の戦で敗れた吉川広家公は、出雲富田

城主12万石より岩國3万国の領主として入封した。以来明治維新まで

268年間、吉川家による海辺干拓や和紙作りなど「ふるさと創生」が実施

され、禄高は6万石となった。

 干拓地の一部は、わが国を含むアジア防衛上の最大拠点として米軍基

地に供用されている。基地に住む米国人1万人を併せ岩国の総人口は

約14万人である。

 岩國が世界に誇る文化遺産に木組のアーチ橋・錦帯橋がある。錦帯橋

の名歌に「みずぎはに立ちてあふげばみつしりと耐ふるかたちの錦帯橋

あり」今野寿美詠がある。

   

 その錦帯橋や岩国城を仰ぎながら、また世界的銘酒「獺祭・五橋・金雀」

等を酌む地酒舟も鵜飼終了後の9月より11月の間運航される。

今年の夏は、酷暑続きであり、水害に今年も侵され岩國は瑕つくままに秋

を深める。



    




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