巻 頭 エ ッ セ イ

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「 夏 の お わ り に 」

2018 年 9月


里 見  佳 保 


    
「夏のおわりに」
                                                             里 見  佳 保 

  先日、灯台が夜間開放されるという話を聞き、行ってきました。昼には

行ったことがあるのですが、夜ははじめてです。ゆっくりと全方向に灯り

がめぐり、沖の方に光を届けています。内部の狭いらせん状の階段をの

ぼると灯台の上は何もありません。空と海と風だけが見えるのです。

風に吹かれて私なりにこの夏を送ることができた気がしました。

   夏の初めにはあれもしたい、これもしたいという思いがいろいろと

ありました。会いたい人、行きたい場所もいくつもいくつも考えました。

でも、毎年やっぱりやりきらないまま夏の終わりを迎えます。特別なこと

なんて、何ひとつないのに、何もまだしていないのにどうして、この夏は

二度と来ないのだろう。きらきらとまぶしい夏は必ず終わる。大人になって

夏はますます早く過ぎていくようになりました。

   過ぎた夏の時間は夏の歌に残ります。歌を読んだり、作ったりすること

は一つの季節を生きた時間は何かを動かしているのだと言葉で確かめる

作業でもあり、この作業を続けていると何ひとつ変わることができなかった

自分の中にいる私の背が少しのびたな、という感覚になることがあるので

す。

   8月22日。私の住むまちで2学期が始まりました。子どもたちがランドセ

ルを背負い、両手に荷物をいっぱい持って歩いていきます。私が子どもの

頃は8月31日が夏休み最後の日でした。夏休みは地域によって期間が

違うようです。ここは北国なので夏休みが短く、その分冬休みが長くなっ

ています。

  夜の灯台は、もとめて行った非日常ですが、日々の中でも気をつけて

いると空が高くなった、風が涼しくなった、洗濯物の乾き方が変わった、

いろいろなところに季節の移ろいを感じることができます。これから始まる

季節にも小さなこと、かすかなことに楽しみを見つけながら歌を作っていき

たいものです。

   秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる 

                                   藤原敏行朝臣


    




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