巻 頭 エ ッ セ イ

<58> 「 イ チ ョ ウ 」
 

2023 年 11月


千 家  統 子



     イ チ ョ ウ

                                                千 家  統 子

       東京都のシンボルマークは、イチョウをデザインしたもの

  と長いこと思っていたが、私の思い込みだった。あれは東京

    都の頭文字の「T」をデザインしたものだそうで、それを知った

    時ちょっとがっかりした。そう誤解してしまうほど、東京の街路

    樹にはイチョウが多く目につく。樹高もかなり高いし、晩秋の日

    に照らされた黄葉の輝きは、歩道からでも車窓からでも目を引

    く美しさで、秋は東京のイチョウの多さを改めて確認する季節

   でもある。イチョウは油分が少なく水分が多いので、関東大震災

   や空襲のとき、延 焼を防いだところがあちらこちらにあったらし

   い。浅草寺でも水を吹いて建物を守ったという大イチョウが残

   っている。そういうことも東京にイチョウが多い理由なのかもし

   れない。

      街路樹はオスの木が多いのか、ギンナンが落ちていることは

   少ないようだが、近所のバス停近くには一本だけメスの木があ

   る。ギンナンの匂いが充満していたらちょっと嫌だけれど、

   ふっと鼻をくすぐる匂いに足元を見ると、実がいくつか踏ま

   れてつぶれているのは、秋の深まりを感じさせてくれて結構

   好きだ。

  (靴につかないように要注意)そしてあのヒスイのような透明感

   のある新物のギンナンに、はらりと塩を振って食べたくなって

   くる。

      知り合いが毎年たっぷりと送ってくれるギンナンは、すぐい

   ただくものの他は、殻ごと3分茹で、水分を切ったら殻のまま

   密封して冷凍する。

  生のまま冷凍するより色もみずみずしさも保っているようで、

  夏ごろまで楽しんでいる。

      明治神宮外苑は今再開発による木々の伐採問題で揺れ

  ている。

  イチョウ並木は伐採はされないが、影響が出るのではと心配

 されている。今年もそろそろ見ごろになりそうだから、

 このエッセイを書き終えたら午後にでも散歩がてら行ってみよう

 と思っている。

      炎上ははるかな昔首都と呼ぶ起伏に沿へる
                 いちやうの黄葉(もみぢ)

    秋の空きりきりたかしかがやかに
                黄をまとひゆく雄の木雌の木は

                    今野寿美『鳥彦』




   
 

【トップページへ】     バックナンバーへ

 

 

inserted by FC2 system