エッセイ 「桜開花の異変と名歌」 原田俊一
友人から頂いた歳時記カレンダーを毎日見ている。
それには、桜始開(さくらはじめてひらく)は3月26日とある。
『樹木大図説』(上原啓二著)に詳述されている桜の開花期も
おおよそ3月末となっている。
気象庁は今年の靖国神社の標本木の開花は3月14日と発表
した。桜の開花は、桜の開花ホルモン(主に休眠物質)と日照
時間により決まるらしい。日本気象株式会社は、今年の開花は
東京3月14日、名古屋3月18日、大阪3月21日、鹿児島3月25日
と発表している。
このデータをみると、冬の厳しい寒さと春先の急激な温かさが
関与する。大都会の空調機器による熱風排気が影響している
ようにも思える。往時の新入生の入学式(4月6日頃)には桜が
満開で歓迎してくれたが、現今では、葉桜が迎えてくれるように
なった。
わが国には、桜は300種以上あり、「ソメイヨシノ」が代表種に
なっている。「ソメイヨシノ」は「エドヒガンザクラ」を母とし、
「オオシマザクラ」を父とする交配種で、江戸時代に東京染井村
の植木職人によって主に接ぎ木クローンにより全国に流布した。
クローンなので全国全く同じ華やかな花が鑑賞される。
紀友則(平安時代・歌人)は、
「久方の光のどけき春の日にしず心なく花の散るらむ」
と愛惜と無常観を詠んでいる。昔はヤマザクラが主流であり、
桜は爛漫さでなく風情を観賞した。
「山中千恵子」は、
「さくらばな陽に泡立つを目守りゐるこの冥き遊星に
人と生まれて」(みずかありなむ)と
鎮魂歌を詠んでいるが、この桜もヤマザクラらしい。
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