巻 頭 エ ッ セ イ

<53> 「桜開花の異変と名歌」
 

2023 年 03月


原 田  俊 一 

 
       エッセイ 「桜開花の異変と名歌」   原田俊一

 友人から頂いた歳時記カレンダーを毎日見ている。

 それには、桜始開(さくらはじめてひらく)は3月26日とある。

 『樹木大図説』(上原啓二著)に詳述されている桜の開花期も

 おおよそ3月末となっている。

  気象庁は今年の靖国神社の標本木の開花は3月14日と発表

 した。桜の開花は、桜の開花ホルモン(主に休眠物質)と日照

 時間により決まるらしい。日本気象株式会社は、今年の開花は

 東京3月14日、名古屋3月18日、大阪3月21日、鹿児島3月25日

 と発表している。

 このデータをみると、冬の厳しい寒さと春先の急激な温かさが

 関与する。大都会の空調機器による熱風排気が影響している

 ようにも思える。往時の新入生の入学式(4月6日頃)には桜が

 満開で歓迎してくれたが、現今では、葉桜が迎えてくれるように

 なった。

 わが国には、桜は300種以上あり、「ソメイヨシノ」が代表種に

 なっている。「ソメイヨシノ」は「エドヒガンザクラ」を母とし、

 「オオシマザクラ」を父とする交配種で、江戸時代に東京染井村

 の植木職人によって主に接ぎ木クローンにより全国に流布した。

 クローンなので全国全く同じ華やかな花が鑑賞される。

 紀友則(平安時代・歌人)は、

    「久方の光のどけき春の日にしず心なく花の散るらむ」

 と愛惜と無常観を詠んでいる。昔はヤマザクラが主流であり、

 桜は爛漫さでなく風情を観賞した。

 「山中千恵子」は、

     「さくらばな陽に泡立つを目守りゐるこの冥き遊星に
           人と生まれて」(みずかありなむ)と

     鎮魂歌を詠んでいるが、この桜もヤマザクラらしい。 

  

   
 

【トップページへ】     バックナンバーへ
inserted by FC2 system