「ア ラ ス カ の 想 い 出」 原 田 俊 一
古い話で恐縮ですが、1974年アラスカに行きました。
アラスカパルプ株式会社の招聘による山林視察が目的です。
羽田空港 発シャトル市経由アラスカ州南部のシトカ市に、
当地の初春の6月に着きました。
アラスカは、ロシア領であったものを、1867年アメリカ
合衆国が買い取った州です。1959年、シトカ市近隣のトンガス
国有林の木材資源を開発利用する目的で、アラスカパルプ
株式会社が進出しました。しかし、森林の保護と採算上の
理由で1992年に閉鎖されました。この33年の短い期間中に
幸いにも、シトカ市近隣の島々を水上飛行機で視察した
体験は、見るもの触れるもの総てがもの珍しく未だに鮮明
に記憶しています。
1 パルプ材・建築用材(シトカ・スプルース)の伐出現場
(小島)を訪れた折、10歳位の娘さん二人と現場主任の父と
三人で出迎えてくれました。そこには黒百合が可憐な花を
咲かせ、まさにこの世の別世界であり、それをブーケにした
ものを手渡してくれました。可愛い歓迎に感謝しつつよく見ると
片方の手に「フエキ糊」のプラスチック・チューブがあるの
です。遠い日本から黒潮が運んだ漂着物を、アラスカの
清潔で無垢な島の娘さんが拾い、親愛を示すためわざわざ
持参しているのです。一瞬私は、アラスカの環境を汚している
国の一人として深い自責の思いに遣られました。
黒百合のブーケは香りアラスカの歓迎うける日差し淡きに
2 視察を済ませ、報告会を終えた後、シトカ市より少し南の
ランゲル島の製材工場に見学に出かけました。水上飛行機から
見下ろすランゲル湾に白い物が沢山浮いているのです。大小
で不定形の浮遊物を見た時は何か分からず異様に感じました。
それは、氷河が、ランゲル湾に押し出されて大きな氷柱が崩壊
してできた氷塊でした。
ランゲル湾に浮かぶ氷
さらに驚いたのは、その氷塊の欠片を水上飛行機で拾い、
フロートに納めて持帰り、夜の宴席のバーボンウイスキーの
ロックにしようという奇想天外な発案です。
私は、数億年の氷河が生んだ単結晶の氷のバーボンを傾け
ながら、奇想天外な思いを抱きました。「このランゲル湾の氷塊
は南下してカリフォニア海流に合流し、赤道直下を還流し、日本
の岸に黒潮として寄せるのではないか?きっと黒潮の源流の
一部は、アラスカの氷河であると」。
黒潮の源(もと)の一つかランゲル湾氷河の氷塊あまた湛える
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