巻 頭 エ ッ セ イ

<37>「アラスカの想い出」


2021 年 7月


原 田  俊 一 

 

     「ア ラ ス カ の 想 い 出」  原 田 俊 一
   
  古い話で恐縮ですが、1974年アラスカに行きました。

 アラスカパルプ株式会社の招聘による山林視察が目的です。

 羽田空港 発シャトル市経由アラスカ州南部のシトカ市に、

 当地の初春の6月に着きました。

      アラスカは、ロシア領であったものを、1867年アメリカ

 合衆国が買い取った州です。1959年、シトカ市近隣のトンガス

 国有林の木材資源を開発利用する目的で、アラスカパルプ

 株式会社が進出しました。しかし、森林の保護と採算上の

 理由で1992年に閉鎖されました。この33年の短い期間中に

 幸いにも、シトカ市近隣の島々を水上飛行機で視察した

 体験は、見るもの触れるもの総てがもの珍しく未だに鮮明

 に記憶しています。

  1 パルプ材・建築用材(シトカ・スプルース)の伐出現場

 (小島)を訪れた折、10歳位の娘さん二人と現場主任の父と

 三人で出迎えてくれました。そこには黒百合が可憐な花を

 咲かせ、まさにこの世の別世界であり、それをブーケにした

 ものを手渡してくれました。可愛い歓迎に感謝しつつよく見ると

 片方の手に「フエキ糊」のプラスチック・チューブがあるの

 です。遠い日本から黒潮が運んだ漂着物を、アラスカの

 清潔で無垢な島の娘さんが拾い、親愛を示すためわざわざ

 持参しているのです。一瞬私は、アラスカの環境を汚している

 国の一人として深い自責の思いに遣られました。

  黒百合のブーケは香りアラスカの歓迎うける日差し淡きに

  2 視察を済ませ、報告会を終えた後、シトカ市より少し南の

 ランゲル島の製材工場に見学に出かけました。水上飛行機から

 見下ろすランゲル湾に白い物が沢山浮いているのです。大小

 で不定形の浮遊物を見た時は何か分からず異様に感じました。

 それは、氷河が、ランゲル湾に押し出されて大きな氷柱が崩壊

 してできた氷塊でした。

     
                           ランゲル湾に浮かぶ氷



  さらに驚いたのは、その氷塊の欠片を水上飛行機で拾い、

 フロートに納めて持帰り、夜の宴席のバーボンウイスキーの

 ロックにしようという奇想天外な発案です。

  私は、数億年の氷河が生んだ単結晶の氷のバーボンを傾け

 ながら、奇想天外な思いを抱きました。「このランゲル湾の氷塊

 は南下してカリフォニア海流に合流し、赤道直下を還流し、日本

 の岸に黒潮として寄せるのではないか?きっと黒潮の源流の

 一部は、アラスカの氷河であると」。

  黒潮の源(もと)の一つかランゲル湾氷河の氷塊あまた湛える

 


   

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