てんきりん <42> 『 サ ー ベ ル と 燕 』 2023年 04 月 |
鏡にてみぎひだり逆になることのふしぎが 解けず七十歳となる 小池 光 鏡に映るのは虚像で右と左が逆。そう学んだのは 中学の理科の授業だったか。毎朝の鏡もそう教え るから、誰も得心してそのまますごす。でも七十 にもなった男がなぜふしぎと立ち止まるのか。し かも小池は東北大大学院で理学を学んだ学究の人。 理詰めの説明なら得意中の得意のはず。けれども 理屈を措いて素手の眼で見るから、鏡も世界も、 そして人生も人智の一歩及ばない不思議になる。 鏡に工夫を凝らす歌も多いが、シンプルに引き 寄せるから鏡の平明な奥深さが現れる。改めて 短歌は滋味深い詩型だと教えている。 最新の第十一歌集『サーベルと燕』から。 (三枝昂之) |