てんきりん <40> 『 詠草36 』 2022 年 11 月 |
人生つて闘争でせう、仇敵との。 さう言ひながらわれは微笑む 岡井隆 逝去二年後の二〇二二年の遺歌集『あばな』から。 漢字では阿婆世、岐阜周辺の方言で「さようなら」の 意味らしい。歌には「芸術院会員影像をとられながら 歌歴を語る」と詞書がある。来し方を問われ、とりあ えずそう言っておくよ、といった感触が結句にはある。 その含みのある微笑みが岡井氏の独特の表情を蘇らせ て切なくもなつかしい。巻末に収録された「未来」 編集後記に今野寿美『森鷗外』を「嬉しく読んだこと を報告しておく。なによりも評論の文体が、今野さん の個性をあらはしてゐるのを喜んだ」とある。 今野へのエールとして大切にしたい。(三枝昂之) |