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てんきりん
<20> 「Blue Sakura」 小林幸子
2019 年 8 月三 枝 昻 之
だれかを捜していますかと学生が
声かけてくれるええおとうとよ 小林幸子
急逝した弟への挽歌「Blue Sakura」から。彼が若き日
に学んだオランダのカレッジを訪れた場面だが、どこか
覚束ない姿に学生が声をかけたのだろう。端的な応えには
このキャンバスを歩んでいた弟の日々を瞼に甦らせようと
する姉の深い愛おしみが滲む。『六本辻』所収「中庭の池
のほとりに黄葉のかがやく樹ありなみだこぼれぬ」と樹々
の無窮に涙を零し、街に戻って「一杯だけビールを飲まう
おとうとよ だれも死者とは知らない町で」と死者へ呼び
かける。人生はいろいろ切ないが、その切なさを抱きとめ
る短歌という詩形はやはり素敵だと感じる。(三枝昻之)