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てんきりん
<18> 『あらがね』 本田一弘
2019 年 4 月三 枝 昻 之
幾万屯の福島のつち秋の夜の
月のひかりを浴むことあらず 本田一弘
放射能に汚染された土はいまも行き場所が決まらない。
季節ごとの光や風や月光と一つになって人々の暮らしを
育む「あめつち」のその土が光や風や月光を失ったまま
の福島。「浴むことあらず」には底籠もる怒りが含ま
れ、自然の営みを壊したままの理不尽を改めて読者に印
象づける。
掲出歌は最新歌集『あらがね』から。「遠ざける、さへ
ぎる、そして管理する。蔑されてゐる福島のつち」とも
詠い、「降る雪は白きこゑなり、おほちちの、おほはは
の、ははの、死者の、われらの」とも詠って、父祖の地
に根をおろした者の骨太の悲歌に独特の力がある。