てんきりん <45> 『 天 上 紅 葉 』 2023年 10 月 |
つと立ちて睾丸火鉢したまへば 弟子のをみならくすくす笑みぬ 前川佐美雄 跨いで暖をとるのは誰か。「昭和二年冬、本郷西 片町」とあるから佐佐木信綱。なんと、あの信綱大 人が妙齢な女性たちの前で股火鉢。寒かったのだろ うが、堪えきれずおみならはクスクス、「睾丸火鉢」 と品を落としながら楽しむのは佐美雄。このとき 信綱五十六歳、佐美雄は新興短歌を担って意気盛ん な二十四歳。その姿を五十年後に思い出して懐かし むのは七十四歳の佐美雄。老いてもお茶目が抜けな い佐美雄ならではの師弟愛だが、信綱大人も意外に お茶目か。掲出歌は没後の『天上紅葉』から。 (三枝昂之) |