てんきりん <44> 『 軽 雷 集 』 2023年 07 月 |
横浜が焼けほろぶち云ふ声きこゆ よる夜ふかくしてしほのみさき潮岬より 中村憲吉 大正十二年九月一日、大阪毎日新聞経済部記者中村 憲吉は常に東京と繋いでいた新聞社の無線電話が突然 通じなくなり、原因不明の異変に遭遇した。ラインを 大きく迂回してグァム島から東京へ繋ごうとするが、 「海底線も伊豆にき断れ」る。さまざまなトライも 上手くいかないまま「偶然に紀州潮岬無線電信局へ、 横浜全滅東京炎上の短報」が入る。それを受けたの が掲出歌。詞書は「後報また絶たれて世間再び寂然 たり」と続く。渦中から遠い人間でなければ詠えな い異様な焦燥と緊張感を歌と詞書の文語表現が生か して屈指の震災詠である。『軽雷集』所収。 (三枝昂之) |