てんきりん <39> 『 詠草36 』 2022 年 11 月 |
逢事はおもい絶たる中空に まちしにゝたる入あひにかね 樋口 なつ 一葉の本名は樋口なつ。小説は一葉、日記や詠草はなつ と分けていた。掲出歌は明治二十年二月の「詠草36」か ら。「都立春」など題詠と自由題の折々の歌があり、掲出 歌は「あるゆうぐれに」と詞書がある折々の歌。 想いは断ち切れないのに逢うことはもう叶わない。かつ て恋しい人を待っていた。あのときを蘇らせるように空を 渡ってゆくよ、夕べの鐘が。 夕暮れの人恋しさを刺激する鐘の音。それに触発された 抑えがたい恋が読む者の心にも広がる。樋口なつにもス ポットライトを当てた山梨県立文学館の一葉展は十一月二 十三日まで。機会があれば観覧を。 (三枝昻之) |