てんきりん

<38> 『 鷲 』



2022 年  9 月


三 枝  昻 之

   国のため戦争(いくさ)に出づる丈夫(ますらを)の

                  親は人混みにもまれて行きぬ

                   川田  順

  「友人の長子出征を送りて二首」と詞書があり、もう一

 首は「国のため戦ふ子らを見送りし友はしづかに歩きて帰

 る」。かけがえにない息子を戦地に送り出す親の痛切を自

 分の痛切として受け止める心が「もまれて行きぬ」に込め

 られている。初出は「日本短歌」昭和十二年九月号「炎夏

 動員」。その七月に始まった日中戦争にいち早く反応した

 歌として共感が広がった。歌集は『鷲』。順は昭和の大戦

 を短歌で支えた歌人と批判もあるが暮らしの目線を手放さ

 ない歌も多く、皮相的な批判ではこの歌人の核心には届か

 ない。掲出歌と同じ寡黙の中の親たちが今日もウクライナ

 にロシアにいる。世界はつくづく無力だ。 (三枝昻之)



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