てんきりん

<37> 「三十年という節目に」



2022 年  7 月


三 枝  昻 之


    2022年7月、歌誌「りとむ」は
                   創刊三十周年を迎えました

    三十年という節目に       三枝 昻之


  はつなつの空へ飛翔する蝶。そんな鮮やかな青い蝶を

 思わせる表紙とともに「りとむ」は歩みだした。

 一九九二年七月号を彩った高麗隆彦氏によるその青い蝶

 は「りとむ」のシンボルとなった。

  出発はどんな時代だったのどろうか。バブル崩壊によ

 る長い不況が始まり、前川佐美雄と土屋文明が他界した

 のは二年前だった。山中智恵子の昭和挽歌『夢之記』は

 「りとむ」創刊の二ヶ月後だった。困難の中からの出発

 だが、この年に穂村弘はもう第二歌集『ドライ ドライ

 ドライ』を出して、新しい時代の活躍が広がった時期で

 もあった。

  「りとむ」十周年記念号には十代から八十代までの特

 集「世代競詠」がある。十代は寺尾恵仁と山口文子、

 八十代は幡野都留子と桑田次男。その寺尾氏は今は大学

 のドイツ語教師、山口さんは講談社からデビューして既

 に二冊刊行の小説家、二人とも頼もしく歩んでいる。

 桑田氏は千葉大の名物教授、幡野さんは上品な抒情に個

 性があったが、お二人は亡くなられた。歳月は否応ない

 が、しかし「世代競詠」七十代の松川洋子さんと

 長谷えみ子さんはいまも健詠が続き、皆さんはまだまだ

 これからですよと私たちを叱咤している。

 長谷さん世代から「小りとむ」まで、幅広い年齢層の競

 詠の場は改めて大切だと感じる。

  十周年記念号の「みだれ髪」語彙から記念号は毎回今

 野寿美を中心に歌集の語彙シリーズを掲載してきたが、

 今回の寺山修司短歌語彙集は一冊の歌集でなはく、

 歌人寺山丸ごとという点に大きな特色がある。

 歌集もすべて収録され、これからの寺山修司研究に不可

 欠な一冊となった。

 結社の系譜から自由で基礎研究も大切にする「りとむ」

 の姿勢が反映された心強い成果である。

 これまでの足跡を大切にしながら、新しい一歩を始めたい
      
         。(22/4/28)  (三枝昂之)


   




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