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てんきりん
<35> 三枝 昻之
2022 年 3 月三 枝 昻 之
石に座し雲をながめてあるほどに羅
漢ごころとなりにけらしも
吉井 勇
高知の短歌大会翌日、友人の小橋則通
氏に猪野々の吉井勇記念館を案内してもら
った。車は細い道を延々と上り、途中で迷
い、やっとたどり着いた。小さな記念館だ
が山里の草庵としては十分な広さ。掲出歌
は勇がここを隠棲の場所と決めた昭和九年
の「渓鬼荘雑詠」から。羅漢には修行途中
の修行者の意もあるからここではそれだろ
う。それにしてもあの祇園の遊蕩詩人勇、
「ゴンドラの唄」の勇はなぜ石や雲と遊ぶ
羅漢詩人に変身したのか。変身は全うでき
たのか。やはりこの男、興味は尽きないが、
細川光洋氏の近著『吉井勇の旅鞄』が懇切
に論じている。 (三枝昻之)