てんきりん

<31> 三枝 浩樹



2021 年   6 月


三 枝  昻 之



  見えざる山そこと描きて雨空の

   ほの明るきにわが目は遊ぶ     三枝 浩樹


 多くの歌人には心の山河がある。啄木は岩木山、茂吉

 月山、文明は榛名山、佐々木信綱は多摩川、私は甲斐

 の農鳥岳で、甲府に向かうとき勝沼から風景が開ける

 とまず南アルプスの挨拶する。そして窪田空穂のそれ

 は北アルプスの常念岳。掲出歌には(常念岳)と脚注

 があり見えない常念を心に描いているわけだ。見えな

 いけれども見えるところには常念を愛した空穂への敬

 愛と挨拶が含まれている。空穂を敬愛する浩樹にとっ

 て常念は空穂と分かちがたく一つなのだ。クレプスキ

 ュールとルビ付きの『黄昏』収録。英文学出身の浩樹

 ならではの言語感覚だろう。 (三枝昻之)






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