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てんきりん
<27> 北 沢 郁 子
2020 年 10 月三 枝 昻 之
黄落の道の明るさわれに降るひとひらは神
ひとひらは明日(あす) 北沢 郁子
銀杏黄葉の並木道が思われる。視野に降る黄葉、そして
地に積もる黄葉。晩秋の陽に鮮やかさを増すその黄の世界
をひとり歩む。「ひとひらは神」は季節が生み出す束の間
の美への感嘆だろう。そしてその黄金(こがね)の明るさは
自身を明日へと生かすしずかな力。恩籠のような祈りのひ
とときを歌の抑制された調べがよく生かしている。北沢の
特色はこうした内省的な世界にある。『秋の視座』所収。
大西民子や富小路禎子らと共に戦後女性歌人の世界を支
えた一人だが、少人数の同人誌に拠ったこともあってか、
論じられることの少ない点が惜しまれる。(三枝昻之)