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てんきりん
<26> 岡 井 隆
2020 年 8 月三 枝 昻 之
一輪の傘が咲くとき 不思議だなあ
雨の方から降つてくるんだ 岡井 隆
開くと傘は音をたてて雨を受ける。差さないときには感
じない空間がそこに生まれ、小さな世界に包まれるやすら
ぎに近い感触が「不思議だなあ」から広がる。文語ではこ
の感触は生まれない。「雨の方から」も巧みで、卑近な行
為もこうした姿なら詩になることを教えている。七月十日
に亡くなった岡井氏生前最後の歌集『鉄の密蜂』から。
岡井さんは存亡の危機にあった短歌を現代文学たらしめ
た原動力だが、自分の世界を壊しては創り、壊しては創り
続けた。変化し続けたその軌跡からなにを学ぶか、またど
う評価するか。残された問いは大きい。 (三枝昻之)