てんきりん

<25> 落 合 直 文



2020 年  6 月


三 枝  昻 之



  父と母といづれがよきと子に問へば

   父よといひて母をかへりみぬ  落合直文


  夕食後の落合家団欒、父は幼い子と睦み、母は縫い物で

もしている図を想像しておきたい。父が問うと幼いながら

も場を心得た子は「父!」と答え、母を振り返る。ここ

がかわいい。微笑みを浮かべながら子と目を合わせる母の

姿も見えてくる。初期の直文は「緋縅の直文」と呼ばれ国

士風の歌で与謝野鉄幹に影響を与えたが、むしろ明治三十

年代の新しい短歌の風向きを柔軟に吸収した暮らしに近し

い掲出歌のような家族詠に魅力がある。緻密な国文学者だ

からこそ新しい短歌と若者を支え、彼等とも競う。直文の

軌跡の大きさが改めて思われる。     (三枝昻之)


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