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てんきりん
<24> 『 光化門 』「入学試験」
2020 年 4 月三 枝 昻 之
困りたる顔あぐる者ややにあり
わが見るときに顔をそらすも 植松壽樹
「入学試験」一連の歌。さてと受験生が思いを巡らせる
目が監督と合い、すぐに逸らす。その一瞬に入学試験とい
う特別な場ならではの緊張が生きる。こうした機微を掬う
のが壽樹の特色の一つだった。『光化門』所収。窪田空穂
のもとで早くから頭角を現し、慶応理財科を卒業後企業人
となったが三十三歳のとき芝中学の国語教師に転じたのは
歌に専念するためだろう。戦後「沃野」を創刊、高校生の
私が月に一度マンツーマンで指導を受けた最初の師でもあ
る。遠い日々のその淡々と温かい時間が懐かしい。上品な
師だったが、私の早大進学直前に急死した。
(三枝昻之)