てんきりん

<23> 『 高安国世全歌集 』 
「塔」


2020 年  2 月


三 枝  昻 之



    春の日に照りて我が亡きあとの街

      かくと見て行く癒えたる今日を 高安国世


   病いが癒えた感慨を馴染みの街への愛着を通して吐露し

 ているが、主題は喜びよりも命の水際、「亡きあとの街」

 は心身おぼつかないその自覚。街はかつて教えていた京

 大の学生街か。『高安国世全歌集』巻末の「塔」昭和五十

 九年六月号作品から。高安は戦後「塔」を創刊、岩波文

 庫『リルケ詩集』などリルケ研究と翻訳でも知られる。五

 十八年リルケゆかりのドゥイノを訪問、帰国後胃癌が判明

 大部分を切除したが翌年七月に亡くなった。掲出歌は最後

 の春の作、その静かな心残りが切ない。永田和弘は愛弟子

 若い歌人を温かく見守る姿がわが眼裏に残る。
                     (三枝昻之)






   

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